規格情報 IEC 61000-4-5 雷サージ試験について
雷サージは雷の放電により電線や信号線等に誘導して侵入するエネルギー量の大きいノイズです。このノイズが電源線を伝って他の電子機器に侵入し、または近接した信号線等に対して誘導して侵入することで、その電子機器が誤動作や故障をしてしまうことがあります。雷サージ試験は、雷を起因とする誘導ノイズに対して、電気・電子機器のイミュニティを評価する試験です。なお、高電圧ストレスに耐えるEUTの絶縁性能の評価や、直接の電撃は考慮していません。
【 IEC 61000-4-5 Ed.3 2014の試験概要 】
1.一般的事項
この規格は、開閉スイッチング及び雷の過渡現象からの過電圧により発生する単極性のサージに対し、電気・電子機器のイミュニティを評価するための規格です。
電源ライン・信号ラインへの印加を想定したコンビネーションウェーブ(1.2/50μsの電圧波形?8/20μsの電流波形)と、電話回線等への印加を想定したコンビネーションウェーブ(10/700μs電圧波形?5/320μs電流波形)の2種類の波形が規定されています。高電圧ストレスに耐えるEUTの絶縁性能の評価や、直接の電撃を考慮したものではありません。
2.試験目的と方法および要求レベル
開回路出力試験電圧及びインパルスの繰り返し周波数
レベル | 開回路試験電圧 ±10%(kV) |
1 | 0.5 |
2 | 1.0 |
3 | 2.0 |
4 | 4.0 |
x | special |
xはオープンクラスで製造者とユーザーとの合意により設定
3.試験用発生器および波形
雷サージ試験を行う場合、下記の仕様を満たす試験器を使用します。
■ AC/DC 電源供給ポート CDN 回路図
発生回路
■ 1.2/50μsコンビネーション波形(1.2/50μs・8/20μs)発生回路と電圧・電流波形
電圧波形
電流波形
■ 1.2/50μsコンビネーション波形規定
フロント時間 Tf μs | 半値までの時間 Td μs | |
開回路状態のサージ電圧 | Tf = 1,67 × T = 1,2 ± 30 % | Td = Tw = 50 ± 20 % |
短絡状態のサージ電流 | Tf = 1,25 × Tr = 8 ± 20 % | Td = 1,18 × Tw = 20 ± 20 % |
■ 電源線CDNの1.2/50μsコンビネーション波形規定(開放電圧)
開放路状態のサージ電圧 ※ | カップリングインピーダンス | |
18 μF (ノーマルモード) | 9 μF + 10 Ω (コモンモード) | |
ピーク電圧 Current rating ≦ 16 A 16 A < current rating ≦ 32 A 32 A < current rating ≦ 63 A 63 A < current rating ≦ 125 A 125 A < current rating ≦ 200 A | Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-10 % | Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-10 % Set voltage +10 %/-15 % Set voltage +10 %/-20 % Set voltage +10 %/-25 % |
フロント時間 | 1,2 μs ± 30 % | 1,2 μs ± 30 % |
半値までの時間 Current rating ≦16 A 16 A < current rating ≦ 32 A 32 A < current rating ≦ 63 A 63 A < current rating ≦ 125 A 125 A < current rating≦ 200 A | 50 μs + 10 μs/ -10 μs 50 μs + 10 μs/ -15 μs 50 μs + 10 μs/ -20 μs 50 μs + 10 μs/ -25 μs 50 μs + 10 μs/ -30 μs | 50 μs + 10 μs/ -25 μs 50 μs + 10 μs/ -30 μs 50 μs + 10 μs/ -35 μs 50 μs + 10 μs/ -40 μs 50 μs + 10 μs/ -45 μs |
※ 試験する電子機器の定格電流に適合する波形規定を満たすCDNを用いる。
■ 電源線CDNのコンビネーション波形規定(短絡電流)
波形パラメータ 短絡電流 | カップリングインピーダンス | |
18 μF (ノーマルモード) | 9 μF + 10 Ω (コモンモード) | |
フロント時間 | Tf = 1,25 × Tr = 8μs ± 20 % | Tf = 1,25 × Tr = 2,5 μs ± 30 % |
半値までの時間 | Td=1.18×Tw=20μs±20% | Td = 1,04 × Tw = 25 μs ± 30 % |
■ 電源線CDNの開放電圧波形と短絡電流波形規定
電源線CDNのEUT側での 開回路ピーク電圧 ±10 % | 電源線CDNのEUT側での 短絡電流 ± 10 % (18μF) | 電源線CDNのEUT側での 短絡電流 ±10 % (9 μF + 10 Ω) |
0,5 kV | 0,25 kA | 41,7 A |
1,0 kV | 0,5 kA | 83,3 A |
2,0 kV | 1,0 kA | 166,7 A |
4,0 kV | 2,0 kA | 333,3 A |
■ 単相電源用CDN(ノーマルモードの例)
■ 単相電源用CDN(コモンモードの例)
■ 三相電源用CDN(ノーマルモードの例)
■ 三相電源用CDN(コモンモードの例)
■ 非シールド非対称相互接続線用CDN
■ 非シールド・対称通信線用CDN
■ 1000Mbit/sまでの 非シールド・対称高速通信線用CDN
■ 非シールド非対称相互接続線用CDNの波形規定
カップリング | 出力電圧 | CDNのEUT側 での開放電圧 Voc ±10 % | 電圧 フロント時間 Tf = 1,67 ×Tr ±30 % | 電圧 半値までの時間 Td = Tw ±30 % | CDNのEUT側での短絡電流 Isc ±20 % | 電流 フロント時間 Tf=1,25xTr ±30 % | 電流 半値までの時間 Td=1,18xTw ±30 % |
コモンモード R = 40Ω CD = 0,5 μF | 4 kV | 4 kV | 1,2 μs | 38 μs | 87 A | 1,3 μs | 13 μs |
コモンモード R = 40Ω CD = GDT | 4 kV | 4 kV | 1,2 μs | 42 μs | 95 A | 1,5 μs | 48 μs |
ノーマルモード R = 40Ω CD = 0,5 μF | 4 kV | 4 kV | 1,2 μs | 42 μs | 87 A | 1,3 μs | 13 μs |
ノーマルモード R = 40 Ω CD = GDT | 4 kV | 4 kV | 1,2 μs | 47 μs | 95 A | 1,5 μs | 48 μs |
CDNは、最高定格の電圧で校正することを推奨。表で示す数値は設定値4kVに対するものであり、CDNが別の最高電圧に対する定格となる場合、校正はその最高定格電圧で行なう。(最高電圧が6kVの場合、この表に示す短絡電流値に1.5を乗じる)
■ 非シールド・対称通信線CDNの波形規定
カップリング | 出力電圧 | CDNのEUT側での開放電圧 Voc ±10 % | 電圧 フロント時間 Tf = 1,67 xTr ±30 % | 電圧 半値までの時間 Td = Tw ±30 % | CDNのEUT側での短絡電流 Isc ±20 % | 電流 フロント時間 Tf=1,25xTr ±30 % | 電流 半値までの時間 Td=1,18xTw ±30 % |
コモンモード R = 40Ω カップリングデバイス* | 2 kV | 2 kV | 1,2 μs | 45 μs | 48 A | 1,5 μs | 45 μs |
* GDT, Clamping device, Avalanche devices
CDNは、最高定格の電圧で校正することを推奨。表で示す数値は設定値4kVに対するものであり、CDNが別の最高電圧に対する定格となる場合、校正はその最高定格電圧で行なう。(最高電圧が6kVの場合、この表に示す短絡電流値に1.5を乗じる)
4.試験のセットアップ
■ 電源線への印加接続例
IEC 61000-4-5に記載される1.2/50コンビネーションウェーブ(C/W)を雷サージ試験器の重畳ユニットからEUT駆動用電源に印加しています。規格によりEUTへの出力はフローティング回路を採用しています。
弊社の雷サージ試験器では上記の接続状態で、プログラム機能を使用することにより、自動化試験を行うことができます。
■ 電話回線への印加接続例
IEC 61000-4-5に記載される1.2/50 C/Wサージを、ファクシミリの電話線へ雷サージ試験器の重畳ユニットから印加しています。
■ 信号線への印加接続例
不平衡相互接続線に対して試験を行う場合は、結合減結合回路網(CDN)は別途、専用のCDNを使用します。
補助機器と供試品間に専用のCDNを接続し、1.2/50 C/Wサージを雷サージ試験器より専用CDNを介して供試品へ印加しています。
いずれの試験も、特に規定がない場合、EUT~CDN間の線の長さは2m以下にしなければなりません。
■ シールド線への印加接続例
シールド線の場合、CDNは適用できないため、EUTの金属エンクロージャー(金属エンクロージャーがない場合はシールド線)にサージを直接印加します。
供試品の筐体に接続するサージアウトは18μFのコンデンサを介した出力となります。
また、供試品の接地は外しておき、補助器のFGはグランドプレーンに接続します。
※上記試験配置図は当社雷サージ試験器を用いたセットアップの一例です。規格上では試験配置に関する規定はありません。
5.試験手順
■ 試験の実施
・サージ数
直流電源ポート及び相互接続線の場合、5回の正及び5回の負のサージパルスを印加します。
交流電源ポートの場合、0°、90°、180°及び270°のそれぞれに5回の正及び5回の負のパルスを印加します。
・サージパルス間の時間:1分以下
6.試験結果と試験報告
試験結果はEUTの仕様及び動作条件によって以下の分類を行います。
1)仕様範囲内の性能(正常)
2)自己回復が可能な機能、または一時的な劣化や機能・性能の低下
3)オペレーターの介入やシステムの再起動を必要とする一時的な劣化、または機能や性能の低下
4)機器やソフトウェアの損傷、またはデータの損失による回復不能な劣化や機能の低下
一般に、機器がサージを印加する全期間にわたってそのイミュニティを示し、かつ試験の終了時にEUTが技術仕様書内で規定した
機能上の要求事項を満足する場合は、検査結果は良好と考えられます。
試験報告は、試験条件および試験結果を含む必要があります。
注意: この試験方法はIEC61000-4-5 Ed.3 2014規格を抜粋したものです。詳細な試験方法等につきましては規格書の原文をご参照下さい。
7. 屋外からの非シールド対称通信線のサージ試験
通信線専用のサージ試験波形である10/700 μsコンビネーション波形は、第3版の改訂より、Annex A(Normative)に独立させたため、目的と試験内容が明確になりました。このサージ波形は、屋外から室内に入り込む通信線を対象にしているため、冒頭に「300 m以上屋外を通っている電話回線」であることが明記されました。通常の電話回線は、建物の入口で一次保護がされており、試験においても、一次保護を含んだ状態で試験を実施します。
■ 10/700コンビネーション波形(10/700・5/320μs)発生回路
■ 電圧サージ(10/700μs)
■ 電流サージ(5/320μs)
■ 10/700μsコンビネーション波形の時間パラメータ
フロント時間 μs | 半値までの時間 μs | |
開放電圧 | 10 ± 30 % | 700 ± 20 % |
短絡電流 | 5 ± 20 % | 320 ± 20 % |
■ 10/700μsコンビネーション波形の時間パラメータ
試験器の出力側の開放電圧 ±10 % | 試験器の出力側の短絡電流 ±10 % |
0,5 kV | 12,5 A |
1,0 kV | 25A |
2,0 kV | 50A |
4,0 kV | 100A |
■ 屋外からの非シールド対称信号線への試験設定の例
屋外からの非シールド対称信号線への試験を行う場合、LSS-F03では試験器の設定の変更を行うことで試験を行うことができます。
■ 屋外からの非シールド対称信号線への試験設定の例
カップリング | 出力電圧 | CDNのEUT側での開放電圧 Voc ±10 % | 電圧 フロント時間 Tf = 1,67 xTr ±30 % | 電圧 半値までの時間 Td = Tw ±30 % | CDNのEUT側での短絡電流 Isc ±20 % | 電流 フロント時間 Tf ±30 % | 電流 半値までの時間 Td ±30 % |
コモンモード カップリングデバイス 1 pair 27,5 Ω | 4 kV | 4 kV | 8 μs | 250 μs | 145 A | 3,2 μs | 250μs |