規格情報 IEC 61000-4-8 磁界イミュニティ試験について
電力線やトランス、モーターなどの近くでは常に磁界が発生し、また、変電所の事故などが発生した際には一時的に強い磁界が発生することがあり、これら磁界は、磁気センサーやCRTなどが影響を及ぼすことがあります。磁界イミュニティ試験は電源周波数においての磁界に対する電子機器の耐性を評価する試験です。
【 IEC 61000-4-8 Ed.2 2009 の試験概要 】
1.一般的事項
この規格は、以下に設置する動作状態の機器において、電源周波数50Hzおよび60Hzでの磁気妨害に対して規定しています。
○ 居住用および商業用区域
○ 工業用施設および発電所
○ 中圧および高圧変電所
この試験は、機器が特定の場所および設置条件において電源周波数磁界に去らされる場合の、イミュニティを評価するためのものです。電源周波数磁界は導体や機器に近接する他の装置より発生します。
○ 通常動作状態における電流により発生する、比較的小さい定常磁界
○ 保護装置(例えばヒューズなど)が動作するまでの事故状態における電流により発生する、短時間だが比較的大きい磁界
定常磁界での試験は公共または工業用低圧配電系統用、もしくは発電所のすべての機器に対して適用できます。
事故状態に関連する短時間での比較的大きい磁界での試験は、定常状態とは異なり高い試験レベルとなり、最高値は主とし発電所の露出場所に設置する機器に適用されます。
2.試験レベル
適用する連続時間および短時間の磁界に適用する試験レベルを下記表に示します。
連続磁界に対する試験レベル
レベル | 磁界強度A / m |
1 | 1 |
2 | 3 |
3 | 10 |
4 | 30 |
5 | 100 |
x | 特別 |
※ Xはオープンクラスで製品仕様書で規定できる。
短時間磁界(1秒から3秒)に対する試験レベル
レベル | 磁界強度A / m |
1 | 適用せず |
2 | 適用せず |
3 | 適用せず |
4 | 300 |
5 | 1000 |
x | 特別 |
※ Xはオープンクラスで製品仕様書で規定できる。
3.試験用装置
試験磁界は誘導コイルに流れる電流により得られます。試験磁界はEUTに対して浸漬法によって曝します。試験装置は、試験用電源(電流源)、誘導コイルおよび関連の試験用補助機器となります。
■ 試験用電源(電流源)
試験用電源は通常、電圧調整器(電力系統又は他の電源に接続)、電流変成器及び短時間適用の制御回路から構成されます。
試験用電源と誘導コイル間の接続は、接続部を流れる電流により発生する磁界が試験中の磁界に影響を与えることを避けるため、ケーブルはできるだけ短くし、一本に撚(よ)る事が望ましいです。
標準正方形コイル 1m×1m 一回巻き | 標準正方形コイル 1m×2.6m 一回巻き | その他の誘導コイル (ヘルムホルツコイルなど) | |
連続モード動作の出力電流範囲 | 1A~120A | 1A~160A | 要求磁界強度を得られること |
短時間モード動作の出力電流範囲 | 320A~1200A | 500A~1600A | 要求磁界強度を得られること |
電磁界波形 | 正弦波 | 正弦波 | 正弦波 |
電流ひずみ率 | ≦8% | ≦8% | ≦8% |
連続モード動作 | 8時間以下 | 8時間以下 | 8時間以下 |
短時間モード動作 | 1秒~3秒 | 1秒~3秒 | 1秒~3秒 |
変成器出力 | フローティングでPEに接続しない | フローティングでPEに接続しない | フローティングでPEに接続しない |
【 試験用電源回路の例 】
■ 試験用電源の特性検証
試験用電源より標準誘導コイルに電流を流し、「標準誘導コイルの電流値」「誘導コイル内の磁界強度」「誘導コイルに流れる電流の総合ひずみ率」を測定し、試験用電源の基本的特性を検証します。
検証には電流プローブおよび精度が±2%よりも優れた測定器を使用する必要があります。また、磁界強度測定には±1dB未満の精度を持つ磁界強度計を用いることが望ましいです。
レベル | 1m×1m標準コイルの電流値 A | 1m×2.6m標準コイルの電流値 A | その他すべての誘導コイルの 中心での磁界強度 A/m |
1 | 1.15 | 1.51 | 1 |
2 | 3.45 | 4.54 | 3 |
3 | 11.5 | 15.15 | 10 |
4 | 34.48 | 45.45 | 30 |
5 | 114.95 | 151.5 | 100 |
■ 誘導コイル
誘導コイルは銅やアルミニウム、またはその他の導電性非磁性材で作られ、試験中に安定して位置決めができるよう機械的構造になっている必要があります。また1m×1m標準コイルおよび1m×2.6m標準コイルの磁界分布は知られているため、電流値の計測のみで校正の必要はありません。
なお、より低い電流で磁界を得るために多巻きコイルを使用する場合は、磁界分布(±3dBの最大偏差)を検証する必要があります。
<卓上型機器用の誘導コイル>
○ 1m×1m標準コイルを使用する場合、試験体積は (W)0.6m×(D)0.6m×(H)0.5mとなります。
○ より大きな試験体積得るために他のコイル (例:ヘルムホルツコイル)を用いても良いです。
○ いかなるグラウンドプレーンもコイルの一部として、またはEUT下の絶縁テーブル上には配置してはいけません。
<床置き型機器用の誘導コイル>
○ 1m×2.6m標準コイルを使用する場合、試験体積は(W)0.6m×(D)0.6m×(H)2.0mとなります。
○ より大きな試験体積得るために他のコイル を用いても良いです。
○ 製品群規格で規定されている場合、1m×1m標準コイル、または他の誘導コイルによる近接法を適用する事も可能です。
○ 垂直位置に使用するコイル(水平方向に磁界を発生するコイル)は、グラウンドプレーンをコイル一部として使用します。
(床置型機器用の試験配置図を参照)
4.試験用装置の校正
誘導コイル係数はEUTを配置しない自由空間の状態で測定します。なお、1m×1mおよび1m×2.6mの標準コイルの場合は校正は不要で、電流計測のみでよいです。
○ EUT寸法に対して正しい寸法の誘導コイルを、絶縁支持体を用いて設置します。
○ 誘導コイルは試験所の壁および全ての磁気材料から1m以上離れた位置に設置します。
○ 磁界センサを誘導コイルの中心に適切な向きに配置し、磁界の最大値を測定します。
○ 試験レベルで規定されている磁界強度を得るために、試験用電源からの誘導コイルへの電流を調整します。
○ 校正は電源周波数(50Hzおよび60Hz)で実施します。
○ 各磁界の向き(XYZ)に対して、校正を実施します。
○ 上記手順により必要な試験磁界を得るためのコイル電流値が得られこのときの(H/I)がコイル係数となります。
5.試験のセットアップ
試験磁界が試験装置周辺にある試験器や測定器、およびその他の感度の高い機器を妨害するおそれがある場合は予防措置をとります。卓上機器および床置き機器に対する試験配置の例を次に示します。
○ 床置き型EUTは高さ0.1mの絶縁支持台を介してグラウンドプレーン上に配置します。
○ 床置き型EUTはアース端子をグラウンドプレーン、または保護接地に接続します。
○ 電源、入力および出力回路は、電力供給源や制御および信号源に接続します。
○ EUTは製造者が供給、または指定したケーブルを使用します。指定がない場合は、非シールドケーブルを使用します。
○ ケーブルは全て、全長の1mを磁界に曝さなければなりません。
○ ケーブル上にフィルタがある場合、EUTから1mのところに挿入しグラウンドプレーンに接続します。
○ 通信線(データライン)は、製造者の指定した仕様に基づいてEUTに接続します。
○ 試験用電源は、誘導コイルから発生する磁界に影響を与えないようにします。(誘導コイルの近くには配置してはなりません)
○ 標準コイルを使用する際にはEUTを囲むようにし、均一磁界エリアの中に配置します。
○ 床置き型EUTで使用する垂直位置のコイル(水平方向に磁界を発生するコイル)は、グラウンドプレーンをコイルの一部として使用します。
■ 卓上型機器(EUT)の試験イメージ
■ 床置型機器用(EUT)の試験イメージ
6.試験の実施
試験室は試験結果に影響を及ぼさず、EUTの正しい動作を保障できるようにします。試験室の電源周波数磁界の値は、選択した試験レベルより20dB以上下回る必要があります。人体暴露に関して適用される要求事項がある場合は、注意して試験を実施します。要求事項が無い場合は2mの距離が推奨されます。試験レベルは、製品の仕様を超えてはなりません。試験磁界強度および試験時間は、試験計画で設定した各種磁界のタイプ(連続または短時間磁界)に従って選択した試験レベルにより決定します。
■ 卓上型機器への試験
標準寸法の誘導コイル(1m×1m)を用いて、前項図(卓上型機器のセットアップイメージ)に示すようにEUTを試験磁界に曝します。続いて、EUTに異なる向きで磁界を曝すために、誘導コイルを90°回転させる、またはEUTを別の向きにして試験磁界に曝します。
■ 床置型機器への試験
適切な寸法の誘導コイルを用いて、前項図(床置型機器のセットアップイメージ)に示すように機器を試験磁界に曝します。
続いて、EUTの全容積を各直交方向で印加するため、誘導コイルを移動させ試験を繰返し行います。
EUTが誘導コイルの均一磁界エリアよりも大きい場合、EUT全体が3dB試験体積の中に徐々に浸漬するように、コイルの最も短い辺の長さの50%に相当する幅で、異なる位置にコイルを移動して試験を繰返し行います。続いて、EUTに異なる向きで磁界を曝すために、誘導コイルを90°回転させ、EUTに別の向きの試験磁界を曝します。
7.試験結果と試験報告
試験結果はEUTの仕様及び動作条件によって以下の分類を行います。
1)仕様範囲内の性能(正常)
2)自己回復が可能な機能、または一時的な劣化や機能・性能の低下
3)オペレーターの介入やシステムの再起動を必要とする一時的な劣化、または機能や性能の低下
4)機器やソフトウェアの損傷、またはデータの損失による回復不能な劣化や機能の低下
試験中に装置がイミュニティを示し、かつ試験の終了時にEUTが技術仕様書内で規定した機能上の要求事項を満足する場合は、検査結果は良好と考えられます。試験報告は、試験条件および試験結果を含む必要があります。
注意:この試験方法はIEC61000-4-8 Ed.2 2009規格を抜粋したものです。詳細な試験方法等につきましては規格書の原文をご参照下さい。