規格情報 ISO 11452-9 Ed.2 2021(近接アンテナ照射イミュニティ試験)の概要
【 ISO 11452-9 Ed.2 2021の試験概要 】 ※広帯域スリーブアンテナを使用した場合のみ記載しています。
1.一般的事項
この規格は自動車に搭載される電子機器と接続されたハーネスのポータブル無線機からの強い電磁界に対する耐性を評価する試験です。試験は電波暗室内にて行い、ポータブル無線機を模擬したアンテナにて電磁界を照射(142MHz~6GHz)させます。
2.周波数帯域と試験レベル
次表の周波数帯域と電力、変調、アンテナ特性を考慮して試験レベルを規定します。これは代表的な例で周波数は地域により異なり、電力は大きくなることもあります。
ポータブル無線機の代表的な特性(例)
送信機の指示 | 周波数帯域 MHz | 電力 W | 標準の送信機変調 | 試験変調 |
10m | 26~30 | 10(RMS) | Telegraphy, AM, SSB, FM | AM 1kHz, 80% |
2m | 144~174 | 10(RMS) | Telegraphy, AM, SSB, FM | CW |
1.25m | 220~225 | 10(RMS) | Telegraphy, AM, SSB, FM | CW |
70cm | 420~470 | 10(RMS) | Telegraphy, AM, SSB, FM | CW |
LAND MOBILE | 146~174 216~223 | 10(ピーク) | FM, FSK | CW |
TETRA/ TETRAPOL | 380~390 410~420 450~460 806~825 870~876 | 10(ピーク) | π/4 DQPSK | PM 18Hz 50%デューティサイクル |
CDMA 800 (cellular) | 815 ~849 | 0.25(ピーク) | GMSK | PM 1600Hz 50%デューティサイクル |
GSM850 (mobile)GSM900 (mobile) | 824~849 876~915 | 2(ピーク) | GMSK | PM 217Hz 50%デューティサイクル |
GSM 1800/1900 (mobile phone) | 1710~1785 1850~1910 | 1(ピーク) | GMSK | PM 217Hz 50%デューティサイクル |
CDMA 1900 (PCS) | 1850~1910 | 0.25(ピーク) | QPSK | PM 1600Hz 50%デューティサイクル |
UMTS (mobile phone WCDMA & TD/CDMA) | 824~849 880~915 1850~1980 1885~2025 1920~1980 | 0.25(ピーク) | HPSK QAM | PM 1600Hz 50%デューティサイクル |
Bluetooth/WLAN (data) WIFI | 2400~2500 | 0.5(ピーク) | QPSK | PM 1600Hz 50%デューティサイクル または20MHzブロードバンドノイズ(AWG) |
LTE (mobile phone OFDMA & SC-FDMA) | 452~458 698~803 / 807 ~862 / 880~915 / 1427~1463 1625~1661 / 1710~1785 1850 ~2025 / 2300~2400 2496 ~2690 3400~3800 | 0.25(ピーク) | OFDM – PSK | PM 1000Hz 10%デューティサイクル または20MHzブロードバンドノイズ(AWG) |
IEEE 802.11a | 5150~5350 5725~5850 | 0.5(ピーク) | QPSK | PM 1600Hz 50%デューティサイクル または20MHzブロードバンドノイズ(AWG) |
略語
変調/アクセスシステム | 内容 | 使用例 |
AM | 振幅変調 | 放送 |
BT | ブルートゥース | - |
CDMA | 符号分割多元接続 | |
DQPSK | 差動四相位相偏移変調 | イリジウム衛星電話 |
FDMA | 周波数分割多元接続 | - |
FM | 周波数変調 | 放送 |
GMSK | ガウス最少偏移変調 | GSM |
GSM 850 | 携帯電話のグローバル・システム 850MHz帯 | - |
GSM 900 | 携帯電話のグローバル・システム 900MHz帯 | - |
GSM 1800/1900 | 携帯電話のグローバル・システム 1800/1900MHz帯 | - |
HPSK | ||
IEEE 802.11a | IEEEにより策定された、一連の無線LAN関連規格 | WLAN |
IMT-2000 | 国際移動体通信 2000 | UMTS |
LTE | ロング・ターム・エボリューション | |
OFDM | 直交周波数分割多重方式 | LTE |
OFDMA | 直交周波数分割多元接続 | |
PCS | パーソナル通信サービス | - |
PM | パルス変調 | GSM |
PSK | 位相偏移変調 | CDMA |
QAM | 直角位相振幅変調 | WCDMA |
QPSK | 四位相偏移変調 | UMTS, W-LAN |
SC-FDMA | Single carrier-frequency division multiple access | |
SSB | 単側波帯変調 | 軍、アマチュア無線 |
Telegraphy | モールス電信暗号化作業 | - |
TDMA | 時分割多元接続 | Tetra 25, DECT, GSM |
TETRA | 公共保安用デジタル移動通信システム | - |
TETRAPOL | 警察用デジタル移動通信システム | - |
UMTS | ユニバーサル移動体通信システム | |
WCDMA | Wideband code division multiplex access | |
WIFI | Wireless fidelity | |
WLAN | 無線LAN | - |
10m/2m/70cm | アマチュア無線の波長帯域 | - |
3.試験の配置
○ グラウンドプレーン
・厚さ0.5mm最小)/幅最小1000mm/長さ最小2000mm、銅、真鍮または亜鉛メッキ鋼
・高さは床から900±100mm(テストベンチの上)
・直流抵抗2.5mΩ以下で暗室内シールドに接合します。接続する配線の間隔は300mm以下
○ LV電源及び擬似電源回路網
・各DUT電源リード線は、5μH/50Ωの擬似電源回路網(AN)を通して供給します。
・電源リターン長が200mmを超えるリモート接地のDUTに対しては、正極用に1台、電源リターン用に1台を使用します。
・電源リターン長が200mm以下のローカル接地のDUTに対しては、正極用に1台を使用します。
・電源のリターンは電源と擬似電源回路網間のグラウンドプレーンに接続します。
・擬似電源回路網はグラウンドプレーンに直接接地し、電源リターンはグラウンドプレーンに接続します。
・擬似電源回路網の測定ポートは50Ωで終端します。
○ HV電源及び擬似電源回路網
・各DUT電源リード線は、高圧用疑似回路網(HV AN)およびAC用疑似回路網(AMN)を介して電源に接続します。
・車両のHVバッテリーを使用します。
・シールドされた供給ラインは、使用するコネクタの仕様に応じて、別々の同軸ケーブルまたは共通のシールドを使用します。
・シールドハーネスは代表するものを使用します。
・充電器の場合、バッテリ充電器のケースはグラウンドプレーン上にボンディングして直接取り付けます。
・AMNのケースはグラウンドプレーン上にボンディングして直接取り付けます。
・充電器のPE(保護接地)ラインは、グラウンドプレーンとAMNのPE接続に接続します。
・各AN / HVAN / AMNの測定ポートは、50Ωの負荷で終端します。
○ DUT(供試品)
・グラウンドプレーンから高さ最小50mmになるように低い比誘電率の絶縁物の上に配置します。
・実際の車両構成を模擬する場合以外は、供試品のケースはグラウンドプレーンに接地しません。
・グラウンドプレーンのエッジから最小100mmに配置します。
・高さは、アンテナのどの部分もグラウンドプレーンから50mmより近くならないようにします。
・DUTのケースは、実際の車両をシミュレートする場合を除き、グラウンドプレーンには接地してはいけません。
・HV電源システムの場合、DUTはグラウンドプレーンに直接配置し、DUTのケースはグラウンドプレーン上にボンディングして直接取り付けます。
・DUTは、グラウンドプレーンの端から少なくとも100mmの位置に配置する必要があります。
○ 試験ハーネス
・LV電源システムの場合、試験ハーネスは1700mm(+300mm/0mm)
・グラウンドプレーンの前端に平行な試験ハーネスの部分は最小1400mm
・HV電源システムの場合、ハーネスの全長は次のようになります。
ー LVライン:1700mm、グラウンドプレーンの前面に平行なLV試験ハーネスは最小1400mm
ーHVライン:1700mm、グラウンドプレーンの前面に平行なHV試験ハーネスは最小1400mm
ーACライン:1700mm、グラウンドプレーンの前面に平行なAC試験ハーネスは最小1400mm
ーDUTと電気モーター間の三相線:1000mm未満
・配線タイプ(単線、撚り線のペアなど)は、実際のシステムの仕様に応じて決定
・試験ハーネスは、グラウンドプレーンから高さ50±5mmになるように低い比誘電率の絶縁物の上に配置します。
・LV試験ハーネスは、グラウンドプレーンのエッジから最小200mmに配置します。
・シールドされたHVパワーハーネスとLVハーネスの間の距離は100mm (+100mm/0mm)
・AC電力線と最も近いハーネス(LVまたはHV)の間の距離は100mm(+100mm/0mm)
○ 負荷シミュレータ
・グラウンドプレーンに直接配置します。金属筐体の場合はグラウンドプレーンに接合します。
・負荷シミュレータがグラウンドプレーンに接地している場合は、擬似電源回路網を通して電源供給します。
【LV電源システムでのテストセットアップの例】
1:DUT
2:LVテストハーネス
3:負荷シミュレーター
4:電源
5:AN(疑似回路網)
6:グラウンドプレーン
7:比誘電率の低い支持台(εr≦1.4)
8:50Ω負荷
9:光ファイバー
10:モニタリングシステム
11:アンテナ
12:同軸ケーブル
13:バルクヘッドコネクタ
14:方向性結合器
15:RF生成機、電力監視装置
16:アースストラップ
17:電波吸収体
【テストベンチにモーターが取り付けられたDUTのHV電源システムのテストアップ例】
1:DUT
2:LVテストハーネス
3:負荷シミュレーター
4:電源
5:AN(疑似回路網)
6:グラウンドプレーン
7:比誘電率の低い支持台(εr≦1.4)
8:50Ω負荷
9:光ファイバー
10:モニタリングシステム
11:HV線(HV+,HV-)
12:インピーダンス整合回路網
13:HV AN
14:貫通管
15:シールドボックス(必要な場合)
16:HV電源
17:電力線フィルター
18:電気モーター
19:三相モーター電源線
20:電波吸収体
21:フィルタを通された 機械的ベアリング
22:ブレーキまたは推進モーター
23:アンテナ
24:同軸ケーブル
25:バルクヘッドコネクタ
26:方向性結合器
27:RF生成機、電力監視装置
28:アースストラップ
【テストベンチにモーターが取り付けられたDUTのHV電源システムのテストアップ例】
1:DUT
2:LVテストハーネス
3:負荷シミュレーター
4:電源
5:AN(疑似回路網)
6:グラウンドプレーン
7:比誘電率の低い支持台(εr≦1.4)
8:50Ω負荷
9:光ファイバー
10:モニタリングシステム
11:HV線(HV+,HV-)
12:疑似回路網
13:HV AN
14:HVライン
15:シールドボックス(必要な場合)
16:HV電源
17:電力線フィルター(HV)
18:ACライン
19:AC終電負荷シミュレーター
20:AMN
21:AC電源
22:電力線フィルター(HV)
23:貫通管
24:アンテナ
25:バルクヘッドコネクタ
26:同軸ケーブル
27:方向性結合器
28:RF生成機、電力監視装置
29:アースストラップ
30:電波吸収体
4.試験の手順
試験はDUTやコネクタおよびハーネスに結合させるために、様々な位置で実施します。
試験は試験レベル設定中に記録された順方向電力レベルから(0 / + 0.5)dB以内の順方向電力で実施します。
アンテナの位置決めは、ハンドリングサポートを使用して手動で行うか、アンテナマストなどのシステムを使用して自動的に行います。
試験アンテナの仕様に応じた帯域内の周波数で、少なくとも中間周波数の下限と上限の帯域幅でテストを実行します。
試験計画で決めたすべての周波数帯域、変調、偏波、および試験アンテナの掃引(場所や位置)が完了するまで試験を続けます。
試験は次の2つの方法のいずれかにて実施します。
4.1試験方法1(セル)
コネクタを含むDUTの表面を正方形のセル(広帯域スリーブアンテナの場合:セルサイズは50mm)に分割し、それぞれのセルに対して50mmの距離にて電磁界を照射します。試験アンテナのいずれの場所もグラウンドプレーンより少なくとも50mmの距離を離します。
4.2試験方法2(掃引)
コネクタを含むDUTの表面から50 mm離した状態で、DUTの機能を監視しながら、DUTの表面全体でアンテナをゆっくりと掃引します。
掃引するスピードは試験計画にて定義します。
試験アンテナのいずれの場所もグラウンドプレーンより少なくとも50mmの距離を離します。
試験方法1(セル)を使用した試験イメージ 試験方法2(掃引)を使用した試験イメージ
1:DUT
2:送信アンテナ
d:セルサイズ
(広帯域スリーブアンテナの場合は50mm)
4.3ハーネスに対しての試験方法
送信アンテナの配置については、下記図を参照してください。
a)アンテナをDUTコネクタから100 mmの距離(位置X1)に配置し、ハーネスと平行にします。 アンテナを基準点とともにハーネスから50mmの距離に配置します。
b)試験方法1(セル)の手順を参照して試験を実施します。
c)位置X2、X3、X4、およびX5で手順b)を繰り返します。
d)DUTコネクタごとに手順a)からc)を繰り返します。
あるいは、の各DUTコネクタの位置X1とX5の間を掃引する、試験方法2(掃引)にて試験を実施します。
上:試験方法1を使用したハーネスの試験イメージ 下:試験方法2を使用したハーネスの試験イメージ
1:DUT
2:DUTコネクタ
3:DUTハーネス
4:送信アンテナ
X1=100mm
X2=150mm
X3=200mm
X4=250mm
X5=300mm
5.試験の報告書
報告書は試験計画書に従って、試験装置、試験領域、試験したシステム、周波数、変調、電力レベル、試験方法(セルor掃引)、試験手順、使用した機器やアンテナ、VSWR値など試験に関する情報を記載します。
注意:この試験の概要につきましては、ISO 11452-9 Ed.2 2021を抜粋したものです。詳細な測定方法などにつきましては、規格書の原文をご確認ください。