鼎談
NoiseKen【 鼎談 】ノイズ研究所に伝わるもの
雑音をつくる意外性
会長石田さんは、どのような少年でしたか?
石田中学生のころから電気少年で、ワイヤレスマイクなどを作っていました。高校でオーディオアンプ、大学時代はミュージックシンセサイザを製作し、それを自作マイコンで制御していました。
会長音楽やオーディオですか。その頃はノイズではなくて、美しい音を?
石田はい。まさか雑音作りを仕事にするとは思っていませんでした。
会長「もの作り」が好きだったのですね。
石田自分で設計して秋葉原に部品集めに行き、帰ってきて組み立てるというプロセスがものすごく楽しかった。社会人になってからも、お客様の要望を聞いて簡潔で使いやすい方法を考え、具現化して提案することが好きでした。
会長それは今でも変わらないですか?
石田当社はノイズを発生させる製品を作っていますが、使いやすい製品を作るという点では、もの作りの考えは同じです。目的が何であっても、お客様が望むもの、世の中にないものを構築することが充実感につながると考えています。
会長石田さんの仕事で、いちばん印象的な製品は静電気試験器ですね。(注:1993年発売の静電気試験器ESS-200AX)
石田1989年当時、ESDガンの軽量化・波形改良などに携わっていました。それまでコンピュータ制御の静電気試験器はまともに動かないというのが定説だったなか、利便性を追求した高機能の静電気試験器を実現できたことには大きな意義があったと思っています。試験者であるお客様が苦労しつつも少しでも楽しく試験できるようになることを当時から目指していました。
社長試験に関わる操作を楽にすること以外にも、試験工数を減らす、メンテナンスの負荷を軽減するなど総合的な見方が必要です。「楽にする」は単純な言葉ですが、当社のパワーワードです。
会長創業当時、“ノイズ”自体が一般には認知されていなかったことを思うと、この半世紀の進展は非常に大きいと感じます。
「知らない」を知るために
社長営業場面では「はじめまして、EMC」を心がけるようにしてきました。確かにノイズの認知度は向上しましたが、電子機器が進化すれば新しいノイズが発生します。お客様の困ったことを解決するために、ノイズの知識の有無に関係なく、「はじめまして」の姿勢は重要だと思っています。
会長それはこのノイズテクニカルレポートの姿勢と同じですね。創業3か月で初号を発行し、毎月、A4で1~2枚程度ですが情報を発信し始めました。日本ではデジタル化前、国際的にはノイズが問題視され始めた頃で、電化製品メーカーのエンジニアも製品の誤動作がなぜ起きるのかわからなかった。そこでテクニカルレポートに試験機関情報やトラブル事例、データを掲載して配布したのです。
石田メーカーのエンジニアは本当に困っていたと思います。今では製品設計から品質保証までノイズが関与することが知られるようなりましたが、最初は誰でもEMC初心者です。私がセミナーの講師を務めるときは、どう説明すればわかってもらえるだろうかを考え、できるだけ丁寧に、を心がけています。まさに「はじめまして、EMC」です。
社長石田さんは企業に席を置きつつ大学院に通って博士号をとりましたね。
石田50代後半からの挑戦で、これも思わぬ展開のひとつです。これまでは、国際会議に参加するエキスパートメンバーとして、国内の試験装置や試験方法の課題をとりまとめたり、国として意見を提案するといったことを20年近く行っていました。一方、静電気試験で収集した実験・データのなかで特に大きな課題をセミナーや雑誌記事などで発表していました。ある時、大学の先生から「このデータを論文にして世界に発信してはいかがか?」という助言をいただき、一念発起してアカデミックの世界にチャレンジした次第です。国際会議の場でも論文のデータのエビデンスに説得力が増し、挑戦した甲斐があったと思いました。また、規格の意味、内容をより深く知ると同時に、それをもの作りにも反映できたことが、会社の強みのひとつになったと考えています。
社長挑戦したことで、会社の新たな財産が生まれました。外部との繋がりは大事です。産官学との連携もそのひとつです。
石田企業では社内で筋を通さないと製品が作れません。もちろん組織だからそれが正しい。一方、大学では、分からないことがあれば自由に研究でき、公的研究機関もテーマが一致すれば研究を進められます。これらの機関が協業することで効果が増大すると思います。立場に関係なく自由にディスカッションできます。エンジニア同志が協業する醍醐味だと思います。
お客様に喜んでいただける製品を作り続けたい
会長私は長年、技術に専念したい社員をバックアップしてきました。何もない。だから最初から作ることができる。そして、みんなに知ってもらうために努力し続けてきた。ノイズという分野でそれを実践してきたのが当社だと自負しています。
社長 我々の仕事は、「新しいノイズの再現への挑戦」です。営業には、日々、ノイズに関する課題を解決してほしいという依頼が入ります。それは新しいノイズです。新しいものに挑戦する気概を忘れたくないですね。
石田新しいノイズは、突然降って湧いてくるわけではありません。世の中の流れ、社会の課題などを知っておくことが重要になります。だからエンジニアも外に出て、外部とつながることが非常に重要だと考えています。
会長お客様の声をきく、ということですか?
石田それももちろんあります。エンジニアがひとりよがりになってはならないと強く感じています。学会や業界の人から、何に困っているのか、今、何が課題なのか、何を解決すれば楽になるのか、楽しめるのかを直接聞くことが必要です。何気ない会話に課題や解決の糸口があります。そこには自分を成長させる要素も多いと思います。この基本的なことを続けたいし、後輩にも期待しています。
社長営業も同じです。多様な業界・立場の方から話を伺うことで、メンテナンス、校正、課題解決の相談などが出てきます。そこからお客様に最適な提案ができます。
会長「ノイズ研究所で試験した」ことが最終製品の信頼性を向上させる。そして製品(試験器?)を安心して楽しく使っていただける。これはとても大事なことで、この信頼を裏切ってはいけない。
社長「もの作り」は、「人づくり」の上に成り立っていると思います。
会長私も経営者として、採用した社員やステークホルダーの皆様の期待に応えられるよう努めます。