製品情報 静電気試験器 3つの始業前点検方法
1. 概要
静電気試験は、帯電した人体から電子機器に放電する静電気現象を模擬し、その電子機器の耐性を評価するための試験です。この試験では、試験器から出力される静電気パルスの波形が規定されており、温湿度管理と共に試験結果に大きな影響を与えます。
そのため、日々の静電気試験を安心・安全・確実に実施するために、本資料では3つの始業前点検をご提案します。
2. 規格で規定されている要求事項
■ 静電気試験器の仕様
静電気試験を行う場合、下記の仕様を満たす試験器を使用します。
エネルギー蓄積容量 | 150pF (代表値) |
放電抵抗 | 330Ω (代表値) |
出力電圧 | 接触放電:8kV 気中放電:15kV |
出力電圧表示の精度 | ±5% |
出力電圧の極性 | 正および負 (切り替え可能) |
保持時間 | 5秒以上 |
放電操作モード | 単発(放電間隔は1秒以上) |

【電圧測定】一般仕様
パラメタ | 値 |
出力電圧、接触放電モード(備考1参照) | 最低限、1kV~8kV、公称 |
出力電圧、気中放電モード(備考1参照) | 最低限、2kV~15kV、公称(備考3参照) |
出力電圧の公差 | ±5% |
出力電圧の極性 | 正及び負 |
保持時間 | 5秒以上 |
基本操作モード | 単発放電(備考2参照) |
備考2:予備試験について 発生器は、1秒間に少なくとも20回の放電繰返し率で動作できることが望ましい。
備考3:仕様する最大試験電圧がこれより低い場合は、15kV気中放電能力をもつ発生器を仕様する必要はない。
【電流測定】 接触放電電流波形パラメタ
レベル | 表示 電圧 | 最初の放電 ピーク電流 ±15% | 立上り時間 (±25%) | 30nsでの 電流値 (±30%) | 60nsでの 電流値 (±30%) |
1 | 2kV | 7.5A | 0.8ns | 4A | 2A |
2 | 4kV | 15A | 0.8ns | 8A | 4A |
3 | 6kV | 22.5A | 0.8ns | 12A | 6A |
4 | 8kV | 30A | 0.8ns | 16A | 8A |

3. 試験器の事前準備
始業前点検に限らず、静電気試験を実施する際には、試験環境や試験器本体を正しい状態に保つことが重要です。
以下の内容を参考にして、日々の試験が安心・安全かつ確実に行われるようにしてください。
● 温度・湿度の調整
静電気試験は温度・湿度の影響を非常に強く受けます。測定する環境は以下の温度・湿度の範囲内にしてください。
IEC 61000-4-2では、気中放電試験における周囲温度/相対湿度の範囲を定めています。
・周囲温度:15℃~35℃
・相対湿度:30%~60%
IEC 61000-4-2に定められた周囲温度/相対湿度の下限(15℃/30%)と上限(35℃/60%)では、
絶対湿度は約6倍もの差になります。絶対湿度が高ければ長い距離を放電することになり、ピーク電流値は低く電流波形の立上りが鈍化し、高周波成分の少ない比較的甘い試験になる可能性があります。また、放電距離が長いため、試験の再現性も悪くなります。
そのため気中放電試験ではなるべく低い絶対湿度環境で試験することが望ましいと考えられます。
● 放電ガンの清掃
下記のものを使用し、放電ガンの清掃を行ってください。試験始業前に清掃することをお勧めします。
・無類アルコール(無水エタノール):エタノール99/5vol%以上含有
・ウェス:汚れていない紙粉や繊維の残りにくいもの(市販の使い捨て紙ウェスなどを推奨)
(清掃方法)ウェスに無水アルコールを少々含ませ、清掃対象箇所を軽く拭いてください。
放電ガンの表面が汚染されると表面抵抗値が低く、吸湿性の汚染により湿度の影響を受けやすくなり、不安定な再現性のない試験になる可能性があります。一方、表面が清浄な場合、表面抵抗値が高く、吸湿性の汚染が無いため湿度の影響を受けにくく、安定した再現性のある試験を行うことができます。
4. 3つの始業前点検方法
弊社で提案できる始業前点検方法は以下の3つがございます。
①試験器本体のプリチェック機能
②ESD電圧メータを用いた電圧測定
③電流波形観測(ESD電流ターゲット、オシロスコープ他)
■3つの始業前点検方法を比較
①試験器本体のプリチェック機能

②ESD電圧メータを用いた電圧測定

③電流波形観測
(ESD電流ターゲット、オシロスコープ他)

点検方法 | ①試験器本体のプリチェック機能 | ②ESD電圧メータを用いた電圧測定 | ③電流波形観測 (ESD電流ターゲット、オシロスコープ他) | |
電圧測定 | 出力電圧 | - | 〇 | - |
保持時間 | - | ◎ | - | |
電流波形 | - | - | ◎ | |
故障診断 | 〇 | 〇 | 〇 |
◎:規格準拠 〇:簡易的 -:機能なし
① 試験器本体のプリチェック機能
● 概要
静電気試験器本体に搭載された2STEPのチェックを行う機能です。
STEP1.高圧電源出力と絶縁不良のチェック
STEP2.放電ガンの放電リレー動作チェック
● 搭載モデル
ESS-PS1 & GT-31S

ESS-S3011A & GT-30RA

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
・試験器本体のみで作業が完結するため、手軽 ・日々の故障診断が容易・専門的な知識がなくても実施可能 | ・規格対象外 |
② ESD電圧メータを用いた電圧測定
● 概要
・規格要求の試験器仕様である気中放電試験の保持
時間を簡単に測定。
・±2kV~±30kVまでの出力電圧測定が可能
● 規格の要求事項
IEC 61000-4-2規格で規定されている
出力電圧・保持時間
接触放電モード:(最低限)1kV~8kV(±5%)
気中放電モード:(最低限)2kV~15kV(±5%) 保持時間:5秒以上

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
・気中放電の保持時間を簡単に測定可能(規格準拠) ・シンプルな操作性で正確な測定が可能・特別な知識や技能が不要 | ・電流波形の測定が不可 ・電圧測定は規格要求の精度がないため規格対象外 |
● 測定手順

③ 電流波形測定(ESD電流ターゲット、オシロスコープ他)
● 概要
静電気試験器の電流波形観測は、ファラデーケージ(ターゲット取付板)、ESD電流ターゲットを使用し、2GHz以上の周波数帯域幅をもつオシロスコープで実施します。
・放電ガンの先端の放電チップ(円錐型)を直接電流ターゲットに 接続させ、静電気試験器は接触放電モードで動作
・メーカー校正から手軽な簡易仕様まで3種類のセットをご提案できます。
● 規格の要求事項
レベル | 表示電圧 | 最初の放電 ピーク電流±15% | 立上り時間(±25%) | 30nsでの電流値(±30%) | 60nsでの電流値(±30%) |
1 | 2kV | 7.5A | 0.8ns | 4A | 2A |
2 | 4kV | 15A | 0.8ns | 8A | 4A |
3 | 6kV | 22.5A | 0.8ns | 12A | 6A |
4 | 8kV | 30A | 0.8ns | 16A | 8A |

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
・規格準拠の電流波形を正確に測定可能(校正と同等レベル) ・簡易版から規格準拠まで3つのバリエーションから選択可能 | ・セッティングに手間がかかる。 ・計測器の操作に専門的な技術が必要 ・簡易版は波形観測の再現性が下がる |
● 3つのバリエーション
1.国際規格準拠版
● 品目
・ファラデーケージ :FC-200
・ESD電流ターゲット:06-00094A※
・BNC-SMA変換コネクタ :02-00133A
・GNDケーブル保持スタンド:03-00060A
・放電ガン固定台座 :03-00061B
※同軸ケーブル :02-00157Aと
20dB BNC型アッテネータ:00-00022Aを含みます。

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
国際規格準拠の精度の高い波形観測が可能 | 設備のサイズが大きく、価格が高い。 |
2.簡易版
● 品目
・ターゲット取付板 :03-00052B
・ESD電流ターゲット :06-00094A※
・BNC-SMA変換コネクタ :02-00133A
・GNDケーブル保持スタンド :03-00060A
・放電ガン固定台座 MODEL:03-00061B
※同軸ケーブル :02-00157Aと
20dB BNC型アッテネータ:00-00022Aを含みます。

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
・精度の高い電流波形観測が可能 ・ターゲット取付板のサイズが大きいため、放電ガンの 輻射ノイズがオシロスコープに影響を与えにくい ・規格準拠といえる場合がある。※ | ・規格対象外になる場合がある。※ ・設備のサイズが大きい。 |
※IEC61000-4-2 AnnexD.5には、「測定は遮蔽室の中で行うことが望ましい(環境が著しい妨害をもたらさない場合は、必要ではない)」と記載があります。
3.お手軽版
● 品目
・ターゲット取付板 :03-00027A
・ESD電流ターゲット :06-00094A※
・BNC-SMA変換コネクタ:02-00133A
※同軸ケーブル :02-00157Aと20dB BNC型アッテネータ:00-00022Aを含みます。

● メリット・デメリット
メリット | デメリット |
・(ファラデーケージを使う場合と比較して)省スペースで安価 ・手軽にセッティング、測定が可能 | ・規格対象外 ・放電ガンを手で保持する必要がある。 ・ターゲット取付板のサイズが小さいため、放電ガンの輻射ノイズが オシロスコープに影響を与えやすい・波形のバラつきが多く再現性が低い |