規格情報 IEC 61000-4-2 静電気試験について
静電気はどこでも発生しその発生原因も様々ありますが、一般的によく思い浮かべるのは寒い冬の時期に自動車のドアノブに触る瞬間での静電気放電現象や化学繊維のセーターなどの衣類を脱ぐ際にパチパチと音を立てる静電気放電現象などです。これら静電気が電子機器に放電することで、その電子機器が誤動作や故障をしてしまうことがあります。
IEC 61000-4-2 静電気試験は、低い相対湿度環境で化学繊維の絨毬や衣料などが使用されるような条件下において、操作者から直接電子機器に放電する場合(直接放電)、あるいは近接する金属物体に放電(間接放電)することで、その金属物体より輻射される電磁界からの電子機器の耐性を評価する試験です。
なお、この試験規格では帯電した人体が金属を手に持ち、電子機器に放電をした事象のみを想定しており、その他の様々な静電気放電現象は考慮していません。
【 IEC 61000-4-2 Ed.2 2009の試験概要 】
1.一般的事項
低い相対湿度環境で、化学繊維の絨毬、衣料などが使用されるような条件により、操作者から直接、あるいは近接物体から発生する静電気放電に対する電子機器のイミュニティ評価に適用される規格です。この規格では、帯電した人体が金属を手に持ち、電子機器に放電をした場合を想定し、その時発生する電流波形をシミュレートするための回路を用いて試験を行うことを規定しています。
2.試験レベル
ESDに対する試験レベルを下記に示します。
レベル | 試験電圧(接触放電) | 試験電圧(気中放電) |
1 | 2kV | 2kV |
2 | 4kV | 4kV |
3 | 6kV | 8kV |
4 | 8kV | 15kV |
X | Special | Special |
放電電流波形および波形の特性
3.発生器の仕様および出力波形の検証
■ 静電気試験器の仕様
静電気試験を行う場合、下記の仕様を満たす試験器を使用します。
エネルギー蓄積容量 | 150pF (代表値) |
放電抵抗 | 330Ω (代表値) |
出力電圧 | 接触放電:8kV、気中放電:15kV |
出力電圧表示の精度 | ±5% |
出力電圧の極性 | 正および負(切替可能) |
保持時間 | 5秒以上 |
放電操作モード | 単発(放電間隔は1秒以上) |
放電電流の波形 | 図参照 |
静電気試験器の簡略ダイアグラム
■ 静電気試験器の特性
異なった静電気発生器で得られた試験結果の比較ができるように、下表に示す特性が確認できなければなりません。
レベル | 指示電圧 | 最初の放電ピーク電流 (±15%)Ip | 立上り時間 (±25%) | 30nsでの電流値 (±30%) | 60nsでの電流値 (±30%) |
1 | 2kV | 7.5A | 0.8ns | 4A | 2A |
2 | 4kV | 15A | 0.8ns | 8A | 4A |
3 | 6kV | 22.5A | 0.8ns | 12A | 6A |
4 | 8kV | 30A | 0.8ns | 16A | 8A |
■ 静電気試験器の波形確認
静電気試験器の波形確認には図で示すように、ファラデーケージおよびターゲットを使用し、2GHz以上の帯域幅をもつオシロスコープで確認を行ないます。放電ガンの放電電極を直接ターゲットに接触させ、静電気試験器は接触放電試験モードで動作させます。
※IEC規格では規定がありませんが、測定器保護の為に20dB程度の高周波用アッテネータを挿入する事をお勧めします。
4.試験器のセットアップ
■ 卓上機器に対する試験機器配置例(検査室試験)
直接放電試験は、供試品に直接放電し、供試品の影響をみる試験です。
グラウンドプレーンの上に高さ0.8mの木製机を置き、その上に水平結合板(1.6m×0.8m)をのせます。
水平結合板は、470kΩの抵抗2ヶでグラウンドプレーンに接続します。
水平結合板と供試品の間に絶縁シートを敷きます。
間接放電試験は、水平結合板および垂直結合板に放電し、供試品の影響をみる試験です。
直接放電試験の試験環境に加え、垂直結合板(0.5m×0.5m)を使用します。
垂直結合板も470kΩの抵抗2ヶでグラウンドプレーンに接続します。
■ 床置き機器に対する試験機器配置例(検査室試験)
直接放電試験は、グラウンドプレーンの上に高さ0.1mの絶縁支持台を置き、その上に供試品を乗せます。
間接放電試験は、垂直結合板に放電させ供試品の影響をみる試験です。垂直結合板とグラウンドプレーンも470kΩの抵抗2個で接続します。
※供試機器のケーブル類は、0.5mmの絶縁シートでグラウンドプレーンから浮かします。
※ガンのGNDケーブルは、グラウンドプレーン以外の電導部から0.2m以上離します。
※IEC規格の場合、供試品用絶縁トランスは言及されておりません。
5.試験手順
■ 気象条件等の環境
気象環境の異なる場所より持ち込まれた機器は、試験環境に十分になじませてから試験を行なう必要があります。また、放電状態を定量的に安定させるために、試験室の気象条件を整える必要があります。IEC 61000-4-2規格に準じた試験を行なうためには、下記表に示す条件を満たす必要があります。
周囲温度 | 15℃~35℃ |
相対湿度 | 30%~60% |
気圧 | 86kPa(860mbar)~106kPa(1060mbar) |
電磁環境 | 試験結果に影響を与えないレベル |
■ 試験手順
直接放電試験:接触放電および気中放電を行います。
間接放電試験:垂直結合板および水平結合板に対し印加を行ないます。
放電回数は1秒間隔で少なくとも10回の放電を両極性で行ないます。
※放電の印加個所を設定する事を目的として、1秒間に20回の放電、あるいはそれ以上の繰返しで放電を行なう予備試験がおこなえます。
6.試験結果と試験報告
試験結果は供試品の仕様および動作条件によって以下の分類を行ないます。
1)仕様範囲内の正常動作
2)自己回復が可能な一時的な劣化または機能や性能の低下
3)オペレーターの介入またはシステムの再起動を必要とする一時的な劣化または機能や性能の低下
4)機械やソフトウェアの損傷、またはデータの損失による回復不能な劣化や機能の低下
一般に、機器が静電気放電を印加する全期間にわたってその耐性を示し、かつ試験の終了時にEUTが製品仕様書内で規定した機能上の要求事項を満足する場合は、検査結果は良好と考えられます。
試験報告は、試験条件および試験結果を含む必要があります。
注意:この試験方法および接続方法はIEC 61000-4-2 Ed.2.0(2008)規格を抜粋し、当社製品で置き換えた例を記載しております。詳細な試験方法等につきましては規格書の原文を御参照ください。