規格情報 IEC 61000-4-6 伝導性イミュニティ試験について
AMやFMなどのラジオ放送、移動無線などにより輻射される電磁エネルギーが電子機器の電源線や信号線などに侵入することにより、故障や誤動作などを起こすことがあります。伝導イミュニティ試験は、ラジオ放送、移動無線など比較的低い周波数帯域の無線通信装置から輻射される電磁エネルギーに対する電気・電子機器の耐性を評価する試験です。電磁波の波長が長いため、電気・電子機器には主に電源線や信号線などに誘導して侵入します。
【 IEC 61000-4-6 Ed.5 2023 の試験概要 】
1.一般的事項
本規格は、周波数範囲150kHz~80MHzまでの意図した無線周波(RF)送信機からの電磁妨害に対する耐性試験について規定しています。※製品規格で上限周波数を230MHzまでと規定する場合があります。なお、本規格では伝導性ケーブル(電力線や信号線、接地線など)を1本も持たない機器に対しては除外されます。
■ CDNを用いた時の試験配置例
■ 注入クランプを用いた時の試験配置例
2.試験レベル
試験レベルは、結合装置のEUTポートで設定します。試験の際にはこの信号を1kHzの正弦波で80%振幅変調します。
周波数範囲 | 150kHz~80MHz | |
レベル | 電圧レベル(e.m.f) | |
U0〔dB(μV)〕 | U0〔V〕 | |
1 | 120 | 1 |
2 | 129.5 | 3 |
3 | 140 | 10 |
X | 特別 | 特別 |
※ Xはオープンクラスで製品仕様書で規定できる。
■ 80%の振幅変調
3.試験用発生器およびレベル調整
■ 試験信号発生設備の構成
■ 試験信号発生設備の構成
G1 | 公称出力インピーダンス | 50Ω |
高調波および歪み | 150kHz~80MHzの範囲内で、スプリアス信号は試験信号発生設備の出力で測定し、少なくとも15dB以下となること。 | |
振幅変調 | 1kHz±10%の正弦波で80% +5% -20%変調 | |
出力レベル | 試験レベルを満足する十分な大きさ | |
T1 | 周波数特性がよい減衰器(0~40dB) 多くの場合はRF信号発生器(G1)に組込まれる | |
S1 | 高周波スイッチ 多くの場合はRF信号発生器(G1)に組込まれる | |
PA | 広帯域電力増幅器 | |
LPF/HPF | ローパスフィルタ/ハイパスフィルタ | |
T2 | 減衰器(固定減衰量6±0.5dB、Z0=50Ω) |
■ 結合装置および減結合装置
結合および減結合装置はEUTに接続する種々のケーブルに妨害信号を適切に結合させるため、また、印加された試験信号が他の装置やシステムに影響を及ぼさないようにするために使用します。※推奨される結合装置及び減結合装置はCDNです。
結合器および減結合器のパラメータ(EUTポートに見られるコモンモードインピーダンス)
周波数帯 | ||
パラメータ | 150kHz~24MHz | 24MHz~80MHz |
|Zce| | 150Ω±20Ω | 150Ω+60Ω -45Ω |
■ 結合/減結合回路網(CDN)
CDNは一つの箱の中に結合回路と減結合回路を含み、EUTに接続する各種ケーブルに適切に結合するために使用します。なお、CDNは特性を満たすものであれば、どのような回路網を使用してもかまいません。
回線のタイプ | 例 | CDNのタイプ |
電源(直流および交流)、グラウンド接続 | AC電源、DC電源、アース接続 | CDN-Mx |
遮蔽ケーブル | 同軸ケーブル、LANおよびUSB接続ケーブル、 オーディオシステム用ケーブル | CDN-Sx |
無遮蔽平衡線 | ISDN回線、電話回線 | CDN-Tx |
無遮蔽不平衡線 | 他のグループに属していない任意の回線 | CDN-AFx |
■ 遮蔽ケーブルで使用するCDN-S1回路の略図例
R=100Ω、 150kHzでL≧280μH
■ 無遮断供給(電源)線で使用するCDN-Mx回路の略図例
CDN-M3:C1=10nF、 C2=47nF、 R=300Ω、 150kHでL≧280μH
CDN-M2:C1=10nF、 C2=47nF、 R=200Ω、 150kHでL≧280μH
CDN-M1:C1=22nF、 C2=47nF、 R=100Ω、 150kHでL≧280μH
■ 無遮蔽不平衡線で使用するCDN-AF2回路の略図例
C1=10nF、 C2=47nF、 R=200Ω、 150kHでL≧280μH
■ 無遮蔽平衡対線で使用するCDN-T2回路の略図例
C1=10nF、 C2=47nF、 R=200Ω、 150kHでL1≧280μH
L2=L=6mH(C2およびL3を使用しないとき、L1≧30μH)
■ 無遮蔽平衡対線で使用するCDN-T4回路の略図例
C=5.6nF、 R=400Ω、 150kHでL1>>280μH、 L2=6mH
■ 無遮蔽不平衡対線で使用するCDN-AF8回路の略図例
C=2.2nF、 R=800Ω、 150kHでL>>280μH
■ 無遮蔽平衡対線で使用するCDN-T8回路の略図例
C=2.2nF、 R=800Ω、
150kHでL1>>280μH、 150kHでL2>>6μH、
■ クランプ注入装置
クランプ注入装置は、結合はクランプオンにて行い、コモンモードインピーダンスはAE側で設定します。従ってAE側はEUTと同じ注入電流を受けるため、イミュニティの耐性を確保する必要があります。
<電流クランプ>
EUTに接続されたケーブルへ誘導結合により印加する方法です。
< EMクランプ>
EMクランプは、EUTに接続されるケーブルに対して容量性および誘導性で結合されます。
①:フェライト管(クランプ)長さ0.6m、φ20mm、EUT側の10個のリング4C65(μ=100)、AE側の26個のリング3C11(μ=4300)ので構成されます
②:半円筒形の銅箔
⑦:EMクランプの構造に含まれるフェライト管(μ=100)
Z1、Z2:周波数応答及び指向性を最適化するために内臓
G1:試験信号発生器
■ 試験信号発生器のレベル設定
試験信号発生器の出力は無変調にて設定します。
試験信号発生器は結合装置のRF入力ポートに接続し、結合装置のEUTポートは150-50Ωアダプタを介し、入力インピーダンス50Ωの測定器に接続します。
結合装置のAEポートは150-50Ωアダプタを使用し、50Ω終端器で終端します。
①150-50Ωアダプタの出力ポートで得られる電圧がUmrに等しくなるようCDNに電力を注入します。
② 電力増幅器の進行波電力Pforおよび150-50Ωアダプタの出力ポート電圧Umrを記録します。
③ 現在の周波数の1%以内で周波数を上げます。
④ 次の周波数が最大周波数(たとえば80MHz)を向かえるまで①-③の手順を繰り返します。
⑤ 記録されたPgenおよびPfor結合装置のEUTポートに求められる試験電圧を作るのに必要な各周波数における電力となります。
なお、電圧Umrは以下の計算式で求められます。
リニア量で、
対数量で、
※ U0 : 試験電圧
4.試験のセットアップ
○ EUTはグラウンドプレーン上の、高さ0.1mの絶縁支持台の上に配置します。
○ EUTから引き出されるすべてのケーブルは、グラウンドプレーンより最低30mm以上の高さに配置します。
○ CDNはEUTから0.1m~0.3m離れた位置に配置し、グラウンドプレーン上に配置します。
■ 単一ユニットのEUT
○ 試験対象となるすべてのケーブルにCDNを挿入します。
○ EUTとCDN間のケーブルはできるだけ短くし、束ねたり包んだりしてはいけません。
○ EUTがアース端子を設けている場合は、CDN-M1を用いてグラウンドプレーンに接続します。
○ EUTにキーボードや手持ち型の付属品がある場合は、疑似手を用いてグラウンドプレーンに接続します。
○ EUTの動作に必要なAEはCDNを介してEUTと接続します。(全てを接続することが望ましいです。)
○ CDNとAE間のケーブルはできるだけ短くすることが望ましいです。
■ 複数ユニットからなるEUT
相互に接続された複数ユニットからなる装置に対しての試験は、基本的には各ユニットを全て単一ユニットとみなして試験を実施することが望ましいです。なお、代替えとして0.4m以内の短いケーブルによって互いに接続される装置の場合には、1つのEUTとしてみなして、絶縁支持台の上に互いに接触することなく、できるだけ近づけて配置し試験を実施します。
■ 注入方法の選択
EUTからのケーブルが10m以上同じ場所に布設しているか、ケーブル・トレイやダクトを通る場合は1本のケーブルと見なします。
■ CDNによる注入方法
○ AEがEUTに直結されている場合、AEはグラウンドプレーン上0.1mの絶縁支持台に載せ、50Ωで終端されたCDNを接続します。
○ AEがCDNを介してEUTに接続される場合、AEは基準グラウンドプレーン上に設置することができます。
○ 試験対象となる予定のポートには1台のCDNを接続し、別のポートには50Ωで終端した1台のCDNを接続します。
(各端末で150Ω終端のループが1つになるようにします。)
○ 減結合回路網は試験を実施していない全てのポートに取り付けます。
○ 終端するCDNの優先順位を以下に記載します。
1. グラウンド端子接続用のCDN-M1
2. 電源用のCDN-M3、CDN-M4、CDN-M5
3. CDN-Sシリーズ
4. 電源用のCDN-M2
5. 注入するポートに最も近いポートに接続される他のCDN
○ インターフェースケーブルに50Ω終端したCDNを挿入できない場合は、AEに50Ω終端したCDNを挿入します。
なお、この際にAEの他の接続にはは全て減結合をします。
○ またAEがエラーを起こす場合には、EUTとAEの間に終端したEMクランプを接続します。(EMクランプを使用しても良い)
【1台だけCDNに接続される2ポートEUTの試験配置例】
【試験中にAEにエラーが出るときの試験配置例】
■ クランプによる注入方法
○ 減結合回路網は試験対象ケーブルを除いて。EUTとAEの中間の各ケーブルに取付ます。
○ 各AEに接続されるすべてのケーブルはEUTに接続されるケーブルを除いて、減結合回路網を取り付けます。
5.試験の実施
○ EUTの動作条件および気象条件(温度、相対湿度など)の範囲で試験を実施します。
○ 発生する電界が大きいため、試験の実施には無線通信の干渉を禁止する様々な法規を遵守するために、試験はシールドルーム内で実施する必要があります。
○ 試験信号発生器を各結合装置(CDN、EMクランプなど)に順次接続して実施します。
○ 1kHzの正弦波で80%の振幅変調をした妨害信号を用います。
○ 試験周波数範囲(150kHz~80MHz)の掃引率は1%を超えないようにします。
○ 各周波数の試験時間は、EUTの励起および応答に必要な時間以上になるようにします。
○ 複数の試験信号を同時に注入した場合、EUTへの影響が1つの信号によるものであることの確認を行います。
6.試験結果と試験報告
試験結果はEUTの仕様および動作条件によって以下の分類を行ないます。
1)仕様範囲内の正常動作
2)自己回復が可能な一時的な劣化または機能や性能の低下
3)オペレーターの介入またはシステムの再起動を必要とする一時的な劣化または機能や性能の低下
4)機械やソフトウェアの損傷、またはデータの損失による回復不能な劣化や機能の低下
試験中に装置がイミュニティを示し、かつ試験の終了後にEUTが機能仕様書の中で規定されている要求事項を満たせば、一般的には試験結果は良好と考えられます。
試験報告は、試験条件および試験結果を含む必要があります。
● 「試験報告書に記載する例」には次の内容を記載する。
○ EUTのID(例:商標、製品型番、製造番号など)
○ EUTの寸法
○ EUTの代表的な動作条件
○ EUTを単一または複数ユニットとして試験したかどうか
○ 相互接続ケーブルの種類と長さ、接続先のEUTのインターフェイスポート
○ 必要であればEUTの回復時間
○ 使用した試験設備の型式およびEUTやAEならびに結合減結合装置の位置
○ 各ケーブルに使用した結合減結合装置
○ 試験をした周波数範囲
○ 周波数の掃引率、持続時間および周波数ステップ数
○ 適用した試験レベル
○ 適用した性能判定基準
○ EUTの動作方法の説明
注意:この試験方法はIEC 61000-4-6 Ed.5 2023規格を抜粋したものです。詳細な試験方法等につきましては規格書の原文をご参照下さい。